愛知県豊明市 無届け有料老人ホーム 特養虚偽申請疑い「中日看護センター」

中日新聞 2011年7月24日

豊明の老人ホーム捜索 愛知県警、特養虚偽申請疑い」
  http://www.chunichi.co.jp/s/article/2011072490100520.html

 
 愛知県豊明市で無届け有料老人ホームを運営する「中日看護センター」の女性経営者(70)が、特別養護老人ホーム建設をめぐって虚偽申請をしていた疑いが強まり、愛知県警は有印私文書偽造・同行使の疑いで、施設や経営者宅などを家宅捜索した。捜査関係者などへの取材で分かった。



 施設は以前から、入所する高齢者を放置する虐待(ネグレクト)などをめぐる告発などが相次いでいた。県警は本件容疑を固めるとともに、施設の運営実態を慎重に調べる。



 虐待の告発を受け、県や豊明市などが2007年から調査。名古屋法務局は09年3月、経営者の指示で従業員が入所者の手首をベッドの柵に縛り付けていたほか、部屋の外から鍵をかけて閉じ込める虐待があったと認定。必要な措置を取るよう豊明市に通告していた。



 豊明市によると、06~09年に少なくとも入所者18人が死亡している。捜査関係者によると、検視や司法解剖はされていない。



 県警への取材では、経営者は昨年夏ごろ、名古屋市緑区で来年7月に開設する特養ホームの建設を申請した際、入所者の口座残高を示す書類を自分の名義に書き換えて、市に提出した疑いが持たれている。書類は自己資金を示すために必要という。



 こうした事件は普通、知能犯罪を受け持つ捜査2課が扱うが、今回は殺人や傷害致死、虐待死などの事件を担当する捜査1課が主体となり、押収資料の分析などを進めている。捜索は13日に実施した。



 施設は豊明市前後町と間米町の2カ所にある。市によると、デイサービスなどの介護機能を備えており、老人福祉法の届け出はないが、実質的に有料老人ホームだった。捜索時に14人が入所していたが、市などが他施設への全員の転居を進めている。



 経営者の親族で、センター取締役は取材に対し「警察の調べを受けており、お話しできない。迷惑をかけたので施設は閉鎖したい」と話した。経営者は取材に応じていない。




 
【無届けの有料老人ホーム】 
国の制度改革で病院や介護施設にいられなくなった高齢者の受け皿として、全国で急増した介護や食事付きの高齢者向け入居施設。無届けのため行政の監視が行き届きにくく、ケアの質などをめぐるトラブルが目立つ。中日看護センターは株式会社で、豊明市間米町に鉄筋3階建て(2000年開設)と同市前後町に同7階建て(03年開設)の2施設を経営している。
   




 

3年半で18人死亡 豊明の老人施設捜索



市「短期間で異常」 

介護放棄 預金管理も不透明



 
 愛知県警の家宅捜索を受けた同県豊明市中日看護センターが運営いる無届け老人ホームでは、必要な介護を放棄する虐待や、不透明な財産管理に関する告発が相次いでいた。行政は高齢者への待遇を問題視し、施設内で死亡した入所者数の多さを指摘した。超高齢社会を迎え、施設不足で行き場を失い、たどり着いた「介護難民」たち。センターで一体、何が起きていたのか。



 「出される食事はおかゆばかり。体重が半分の40キロに減った」



 2008年、センターに入所していた男性=当時(66)=は、立ち入り調査に入った豊明市の担当者に空腹を訴えた。女性入所者は「汚れたおむつが部屋に放置されたまま」と証言した。



 4年前、認知症の母親を2ヶ月半、入所させた県内の女性は本紙の取材に対し「面倒を満足に見ないためか、最初の3週間で筋力が衰え、階段を満足に上り下りできなくなり、認知症も進んだ」と話す。3年前まで職員として勤務していた女性も「お年寄りの背中が床ずれで、血で真っ赤なのに、経営者に「水道水で洗って、おむつを当てれば良い」と指示された」と話した。



 豊明市などによると、2007年にネグレクト(放置)などを指摘する施設職員らの通報が始まり、市議会でも問題が取り上げられた。



 立ち入り調査は10回前後に上り、一部の部屋で外から鍵がかけられていた事実が発覚。名古屋法務局の虐待認定に加え、市も2009年、「夜間の施錠は災害時に重大な結果を招く」として、職員の増員などによる改善を経営者に求めた。



 施設が入所者の預金口座を管理していたことでも複数の通報があった。入手時に通帳や印鑑を施設に預けたままとなり、支出や残高への充分な説明がなく、市に不安を漏らす入所者もいたという。



 だが、市は施設が無届けであるため「実態把握は困難」と説明。虐待が「ないとは判断しがたい」との見解を示した。3年半で18人の死亡を確認した調査結果を受け、市の担当課長は「短期間に集中しすぎており、こうした施設としては異常だ」と指摘している。
 




無届け老人ホーム 介護難民の「受け皿」に

待遇 文句言えず


 

 中日看護センターは本来、老人福祉法上で「有料老人ホーム」に分類されるが、県への届け出をせず、職員体制の適切さなどをチェックされないまま運営されてきた。問題の背景に正規施設が慢性的に不足し、無届け施設が、行き先のない「介護難民」の受け皿となっている現状がある。



 センターは「介護対応型アパート」を自称し、建前はあくまでアパート。だが県は、高齢者が入所し、食事なども提供される実態を「有料老人ホームにあたる」と判断。基準を満たして届け出るよう再三、指導してきた。



 無届け施設が問題となったのは2009年、群馬県渋川市の施設「たまゆら」で10人が死亡した火災。行政の監視が及ばず、防災や当直体制が不十分だった。厚生労働省によると、今も全国に248、愛知県には6の無届け施設がある。



 たまゆら火災は、介護する家族がおらず、届け出施設などから厄介がられる重い認知症患者や生活保護受給者らが集まる「現代の姥捨て山」という側面でも注目された。中日看護センターにも同じ図式が当てはまる。



 国は2006年の医療制度改革で、長期入院用の病床の削減を打ち出した。診療報酬も長期より短期の方が稼げるため、患者は早期退院を求められた。



 だが受け皿となる特別養護老人ホームなどは足りないまま。この結果、介護難民が無届け施設に向かった。豊明市によると、同センターでも国立病院などの紹介で入所した人が少なくなかった。



 日本福祉大中央専門学校の渡辺哲雄専門教員は「追い出されれば、ほかに行き先がないので、無届け施設の待遇に文句が言えない。介護難民が生まれる仕組みを国がつくってきた。似た問題は各地にあるはずだ」と指摘している。