介護職員の女性、寝たきりの入所者殴る姿がビデオに

読売新聞   2011年9月9日

「20代介護職の女、入所者殴る姿がビデオに」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110909-OYT1T00504.htm


 
 東京都八王子市上川町の上川病院で今年6月、女性介護職員(20歳代)が、寝たきりの女性入所者(80歳代)の顔を殴って約3週間のケガを負わせたことが8日、分かった。



 病院からの報告を受け、市は立ち入り調査で事実を確認し、都に報告。病院は介護職員を傷害の疑いで八王子署に刑事告発し、解雇した。



 市や病院によると、夜勤に就いていた介護職員は6月12日午前1時10分頃、おむつを交換するため、女性の1人部屋を訪れた際、左手で2回、左頬を殴ったという。翌日午後3時頃、病院の看護師が、女性の左頬が皮下出血しているのを見つけ、上司に報告した。



 女性の部屋は家族の同意のもと、ビデオカメラが設置されており、病院が映像を確認したところ、介護職員が女性をたたく姿が映っていた。介護職員は「記憶にはないが、映っているのは自分。記憶にないことをやったといわれても」と話したという。



 その後、病院は女性の家族に謝罪。同15日に市に通報し、介護職員を同24日付で懲戒解雇した。市は7月に2度立ち入り調査を実施し、虐待があったと判断、8月15日に都に報告した。



 懲戒解雇の通知などによると、介護職員は6月11日夕からの夜勤中、女性を含む入所者3人に、定められた時間におむつの交換をしていなかった。病院では、内規で勤務中の携帯電話の使用を禁じているが、映像には携帯電話を操作しながら、居室に入り、おむつ交換をせず、数分後に室外に出る姿も映っていたという。



 介護職員は今年1月に採用されたが、病院が実施した虐待防止に関する研修には出席していなかった。
上川病院の吉岡充・理事長(写真)は「利用者の観察をきちんと実施し、異常があれば確認する体制を敷いている。発見した場合には隠匿しないように努めることで、再発防止をはかりたい」と話している。
 


 


平成23年9月10日 上川病院  理事長 吉岡 充

http://www.kamikawa-hospital.com/download/PDFgyakutaihoudou.pdf

   関係者のみなさまへ


              新聞報道に際してのお詫び


 昨日、別添のように読売新聞朝刊多摩版で、本日は朝日新聞朝刊多摩版、東京新聞
刊東京版に、本年6月12日に上川病院で起こった介護職員Aを加害者とする虐待事件
が報道されました。虐待事件を起こしたこと、虐待を行った介護職員に対する重い管理
責任があるということについて私はまことに遺憾に思っています。ご利用者、ご家族は
もちろんのこと、高齢者医療・介護関係者のみなさま、これまで私とともに身体拘束廃
止運動やその立法化の運動に携わって下さっているみなさまにはこの場を借りて深くお
詫び申し上げます。


 まずここにみなさまに今般の虐待事件の概要ならびにその処置をご報告申し上げます。
 事件は、当院の介護職員20代の女性A(本年1月採用)が、6月12日夜間勤務中
の深夜、1時10分、患者Hさん(80代女性)の左ほほを2回殴り、全治3週間のけ
がを負わせたというものです。発見は翌日6月13日、午後3時30分、看護師がうっ
すらとした内出血が左ほほにあるのに気づき上司に報告しました。虚弱である高齢者の
場合皮膚の剥離や内出血は生じやすく、それはケアの動作中にも生じえますが、上司は
自分では動けないHさんには不自然な内出血であると判断しました。幸いにもHさんの
居室にはモニターが設置されていたため、その録画を14日午前中に確認したところ、
AがHさんを叩く様子が映っていたため同日午後Aを呼び出し事情を聴取したところ、
自分の行為であることを認めました。ただちにHさんのご家族に対して謝罪を行うとと
もに、翌日6月15日に高齢者虐待防止法に基づき八王子市に通報を行いました。また、
自宅待機処分としたAに内容証明を送り6月24日に正式に懲戒解雇処分としました。
当院の倫理規程上、虐待を行った者は懲戒解雇処分に付すとともに刑事告発をするとな
っております。その旨もAには伝えましたが、しかし、Aにも将来があり、また、虐待
は到底許されないことではありますがAの個人的諸事情を上司たちも聞いていたため、
なんとかAからもご利用者、ご家族に対して真摯にお詫びをさせ懲戒解雇処分のみに留
めようと2度ほどAにお詫びのことばを持ってくるよう伝えました。しかし2回とも約
束した期日を土壇場でキャンセルされ、最後の6 月20日にはAが両親とともにやって
きて自分の虐待を認めた発言を撤回し虐待行為を完全に否認したため、止むを得ず規程
どおり6月23日刑事告発処分に踏み切りました。この点は今もって残念です。

 6月27日、関係幹部職員の減棒処分を決定し、6月30日当院をご利用中の全ご家
族に虐待事件の概要と謝罪、その処置について記した手紙を差し上げました。

 7月に入り、7日と12日の2度八王子市による立ち入り調査を受け、8月10日八
王子市からAの殴打行為という身体的虐待があったこと、他の虐待は認められなかった
という通知を受け取りました。


以上が概要と処分等の経過です。


今回の報道のきっかけは、読売新聞の八王子支局の記者が9月8日、都内の有料老人
ホームが内部告発された虐待事件をきっかけに、八王子市役所に市内での虐待事例はな
いかと取材したところ当院の虐待事例の情報を得て取材に来たものです。実は、同じ読
売新聞の立川支局の記者からはその有料老人ホームの虐待について考えを聞かせてほし
いという申し入れを受けており、9月12日に取材を受ける予約を入れました。私の頭
の中では11月の全国抑制廃止研究会大阪大会で当院での虐待事件の話をするつもりで
したので2 ケ月前倒しになるけれども当院の虐待事件にも触れながら話をする腹づもり
ではおりました。それで八王子支局の記者の案件は病院名を出さない匿名での報道も可
能でありましたが、私は病院名を公表することを選択しました。


虐待事件を発生させたことはどう考えても失態であり恥ずかしいことです。新聞報道
で病院名を公表されることはさらに恥ずかしく、また関係者のみなさまにも多大なご迷
惑をおかけするとも考え悩みもしました。ただ、身体拘束の管理をしていく上で今まで
も難しい思いをすることはありましたが、今回職員による殴打、虐待という経験をして
みて、人はそれぞれであり虐待防止もこれもまた難しい側面があるものであるという思
いを強く抱きました。虐待防止についてはそれなりに研修や教育体制は行っているつも
りではありますが、それだけでは不足であることが今度の事件を通してはっきりわかり
ました。身体拘束廃止に関しては今でもそれなりに先を駆けているだろうという自信は
まだありますが、虐待防止という点ではやはり、謙虚に受け止め一から出直しすべきだ
と考えました。今回、そういう思いで実名が出ることもそれなりには意義があると考え
踏み切った次第です。


それから、この事件の被害者である利用者Hさんの内出血については虐待事件発生直
後、看護師が発見する前にご家族が面会をされましたが、それでも気が付かなかったほ
ど当初はうっすらとしたものでした。おそらく単なるケア上のアクシデントとして片付
けることも十分に可能なものであったとは思います。また、加害者Aも一旦は「記憶に
はないが自分がやったことに間違いはない」という自分の虐待を認める発言を行ってお
り、自己都合による退職届も提出してきました。これまた、そのまま自己都合退職を認
め虐待事件をなかったことにすることは十分に可能であったとも思います。しかし、も
し私たちがそのような対応をすれば、自分で声を上げられず、訴えることのできない患
者のHさんは、殴られ泣き寝入りになってしまいます。私たちがこれまで行ってきた身
体拘束廃止運動の理念と真っ向から反する行為となってしまいます。逃げ道はあるには
ありましたが、正面から高齢者虐待防止法に基づく通報を行い処分を受ける道を選択し
ました。その結果として新聞報道の取材がきたのでそれは潔く受けようという思いもあ
りました。高齢者虐待防止法の通報を行うことは職員も緊張し、再発防止にはプラスに
なることを実感しています。


今般の実名報道はこのような顛末であります。みなさまにはお騒がせをし、また、多
大な影響とご迷惑をおかけし申し訳ありません。



               平成23年9月10日


                  上川病院

                     理事長 吉岡 充