三重県津市 4歳女児暴行死 児童相談所と人工知能(AI)


津市で昨年5月、4歳女児に暴行して死亡させたとして、傷害致死の罪に問われた母親の判決が下された。

この母子を救うことは出来なかったのか。

この事件には、児童相談所も介入していたのだが未然に防ぐことは出来なかった。

今回の判決を踏まえて、児童相談所の所長の見解があるが 非常に気になる。


県は保育園から通告を受けたものの、人工知能(AI)を使った独自のシステムの分析を参考に、児相での一時保護を見送った。
県児童相談センターの中沢和哉所長は、虐待の通告が増え業務が逼迫(ひっぱく)している中でAIを活用する意義を強調する。

児童相談所の職員の人員不足での業務の逼迫を挙げて、人工知能(AI)の活用を過信している懸念が感じられる。

児童相談所やAI が適切に機能していたとしても、今回の事件を未然に防ぐことは無理だったかもしれない。

でも テスト運用ならまだしも、実用化しているのに疑問を抱く。


こども家庭庁も人工知能(AI) を使ったシステムを全国の児童相談所で運用するらしい。

果たして、AI のデータが どこまでプロファイリングされたものか精査する必要があるはず。


いずれ、高齢者や障害者の虐待にも AI が利用される日も近い気がする。


介護認定の一次審査にもコンピューターが利用され、要介護認定等基準時間の推計値を算出する。

(要介護認定等基準時間とは、介護にかかる手間を時間で表した目安)

このコンピューターのデータベースも運用にもバラつきが大きい気がするが。





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津市で昨年5月、保育園児の三女=当時(4)=に暴行して死亡させたとして、傷害致死の罪に問われた母親で工場作業員の中林りゑ子被告(43)に対する裁判員裁判の判決公判が8日、津地裁であり、西前征志裁判長は懲役6年(求刑懲役8年)を言い渡した。
 西前裁判長は判決理由で、三女のほのかちゃんを長女や次女と比べて差別的に扱い「育児が思い通りにいかないことへのいら立ちから安易に連日暴行した」と指摘。「被害者の精神的、肉体的苦痛は計り知れない」と非難したが、暴行は頭部への打撃を目的とせず、突発的だったとした。
 判決によると、被告は昨年5月21日ごろ、津市の自宅で布団を引っ張り上げてほのかちゃんを転倒させ、翌22日ごろには机の上にいたほのかちゃんの背中を殴って床に転落させて、同26日に急性硬膜下血腫による脳ヘルニアで死亡させた。
 被告は生後間もないほのかちゃんを熊本市内の「赤ちゃんポスト」に預けた後、乳児院から引き取った。
 判決後、裁判員らから「周囲に甘えることも必要だったのでは。自分を大切にしないと他者も大切にできない。2人の母として更生の道を歩んでください」と声がかけられ、中林被告は繰り返しうなずいた。





保育園職員ら後悔「もう少し踏み込めば」津4歳女児暴行死、母は孤独を深めて


2024年3月9日 05時05分 (3月9日 05時05分更新)

赤ちゃんポスト」に預けた娘を引き取り、孤独な育児に追われたシングルマザー。公判では、中林被告の苦悩も明らかになった。周囲がくみ取り、幼い命を守ることはできなかったのか。本紙が津市を通じてほのかちゃんが通っていた保育園に取材を申し込んだところ、複数の園職員らが書面で対応を振り返った。
 「保育士の抱っこやひざの上で絵本を見ることが大好きでした。自我が発達し、イヤイヤと主張することもあったが、経験が増えることで気持ちの切り替えも上手になってくると思っていました」
 保育園の職員らには、ほのかちゃんはそんな子に映っていたという。だが、公判で被告は、ほのかちゃんが発達障害ではないかと思い保育園に相談したと明かした。園に障害の可能性を否定されたことでふさぎ込んだという。
 園側は「お母さんは、言葉がゆっくり、表情が乏しいなど心配していたが、園生活で笑顔や言葉も増えてきたので見守っていた」と対応を振り返った。ほのかちゃんの欠席が目立つようになって以降も被告に「とにかく待っている」と伝えていたという。
 園側は、児童相談所に「顔にあざがある」と通告したことで、被告が心を閉ざしたと感じている。その後は信頼関係を崩さないため、過度な介入を避けたといい、「土足で踏み込んでいけないが、もう少し踏み込めばよかったのかも」と後悔をにじませた。
 一方、県は保育園から通告を受けたものの、人工知能(AI)を使った独自のシステムの分析を参考に、児相での一時保護を見送った。県児童相談センターの中沢和哉所長は、虐待の通告が増え業務が逼迫(ひっぱく)している中でAIを活用する意義を強調する。
 だが、三重短大の田中武士講師(社会福祉学)は「人間は本当にこの対応でいいのか考えるが、AIにはためらいがない。子の安全が最優先だが、母子の気持ちに寄り添う機会を奪ってしまうのでは。まずは、現場の児相職員の安定した労働環境を保障することが重要だ」と指摘する。
 (塩生衣菜、相原豪)













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一時保護見送り、21問でAIが判断 津・女児死亡、少ない情報量
2023年7月20日 05時05分 (7月20日 05時06分更新)




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津市で保育園児の女児(4つ)が母親(42)の暴行で死亡したとされる事件で、三重県人工知能(AI)を使った独自の対応支援システムの分析結果を参考に、女児の一時保護を見送っていた。システムは虐待が疑われた過去の事案から類似事案をAIが抽出し、当時の対応を示す仕組み。ただ各事案の情報量は少なく、更新されていないという課題も。県は改善を検討している。 (松本貴明)


三重のシステム 過去事案から算出 更新なく

 一時保護率は39%、虐待疑いの通報の再発確率は13%-。

 昨年二月、女児への虐待の疑いの通報を受けた県中勢児童相談所は「AIを活用した児童虐待対応支援システム」(AiCAN)を起動させた。表示されたのはAIが判別した過去の類似事案のうち、一時保護措置を取ったケースと通報が再発した事案の割合。「特段高くない」(児相関係者)と判断し、見つかった女児のあざが虐待が原因か分からなかったことなどから、一時保護しなかった。

 二〇二〇年に運用が始まったAiCANは、県内の一四年度以降の虐待疑い事案約一万三千件のデータを蓄積。首から上に傷があるか▽性的虐待を受けているか▽子どもが家に帰りたがるか-など、各事案で二十一の設問の回答を入力している。AIはこの回答を基に類似事案を絞り込み、過去の事案への対応を新たなケースの参考にする。

 「(AiCANが示す)一時保護率、再発確率はあくまでも過去の事案のデータで、新たなケースの危険度ではない」と説明するのは、県内の児相を統括する児童相談センターの中沢和哉所長。AiCANは、新たな虐待疑い事案のリスク予測用ではないと強調する。一方で、「類似事案を絞り込むための情報量が少なかった可能性はある」と改善を検討する。

 県は虐待疑い事案それぞれで入力している情報量を増やす方針。現在の二十一項目は子どもの被害状況に関する情報に限られ、関連施設への入所経験の有無や家庭環境に関する項目はない。いずれの情報も通報時の入力から更新しておらず、同じく改善する考えだ。

 児童虐待の疑い事案に対応する児相は県内に六つあり、職員数は計百三十七人。国が児相の体制強化を掲げたため、一九年から四割弱増えた。ただ、経験不足の職員が多いことが課題で、中沢所長は「一時保護するかを最終的に判断するのは人間だが、AiCANは判断の一助になる」と有用性を口にした。

政府も開発、設問90問 三重は21問

 児童相談所の虐待対策を巡るAI活用では、三重県のAiCANは全国で先駆的な取り組みだ。政府はAiCANを参考にシステム開発を進めており、二〇二四年度をめどに全国の児相が利用できるようにする。

 政府のシステムは虐待疑い事案それぞれで設問への回答を入力し、類似事案の一時保護率や再発確率などを算出する。仕組みはAiCANとほぼ同じだが、設問数が約九十と多い。子どもの被害状況以外に、保護者の経済状況や精神状態なども答える。

 こども家庭庁の担当者は「設問の項目が多い方が情報量も増える。虐待リスクを正確に評価するにはこれだけ必要だった」と話す。

 名古屋市立大の小山聡教授(知能情報学)は「虐待にもさまざまな種類があり、情報量が少ないと類似事案を正確に抽出できない恐れがある」と話す。三重県と国のシステムで設問数に開きがあることに「類似事案の抽出精度に差が出るかもしれない」と指摘する。

 関西大の山県文治教授(子ども家庭福祉学)は「人間の判断を助けるという点でシステムは有用」と話す。一方、AiCANは過去の類似事例を示しているだけで「傾向の異なる事案が新たに発生した時、一時保護率など正しく算出できるのか。システムは絶対ではない」と注意する。

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なぜ三重県女児虐待死は防げなかったのか…元児童相談所職員が指摘する「AI導入の盲点」
AIが出した「女児を保護する確率39%」は正しかったのか

2023/07/21 15:00






2023年5月26日、三重県津市で4歳の女児が実母の暴行によって死亡した。
東京都内の児童相談所に心理の専門家として勤務していたカウンセラーの山脇由貴子さんは「三重県児童相談所が全国に先駆けて導入したAI(人工知能)のリスク評価システムで、当該女児のケースで保護する確率は39%と出た。
しかし、職員がAIに入力したデータ自体が間違っていることも考えられ、やはり職員による家庭訪問をためらうべきではない」という――。

なぜ虐待死は防げなかったのかを検証する前に、この事件の経過を振り返っておきたい。

まず、この母親は、平成31年に「子どもを養育できない」と児童相談所に相談し、児童相談所は子どもを一時保護した後、乳児院に措置している。しかし一部報道では、母親はそれ以前に、熊本の赤ちゃんポストに子どもを預けたことがあるとされている。

乳児院措置後、令和3年に母親の希望によって子どもは家に帰ったが、令和4年2月に保育園から子どもの両ほおと耳にあざがある、との通告があり、児童相談所は家庭訪問により、あざを確認した。この際、児童相談所は一時保護も検討したが、あざが軽微だったことと、母親が指導に従う姿勢がある、との理由で一時保護しなかった。

その後、児童相談所は国のガイドラインにより、3カ月に1度、保育園や親族からの聞き取りは行ったが、子どもはあざが確認された2カ月後の昨年7月から登園しなくなった。児童相談所は長期欠席を知りながら、かつ「要保護児童」としながらも事件の起こった今年5月まで約1年間、家庭訪問等によって子どもと母親に直接会って話を聞くことはしなかった。


三重県の児相はAI導入前に保護の重要性を理解していたはず

こうして児童相談所の関わりの経緯を見るだけで、対応に問題があったことは明らかである。ひとり親家庭、過去に一時保護歴、施設入所歴があり、それ以前に赤ちゃんポストに預けている。加えて家庭復帰後に再度の通告。その後の長期の保育園欠席。AIの評価など必要なく、即、子どもの現認、そして一時保護に踏み切るべきだった。

では、三重県のAIシステム導入の内容を参照して、児相の対応を見ていきたい。三重県は死亡検証を通し、AIによるリスクアセスメント開始前に、虐待対応ポリシーを変更している。「確信がなく児童を保護せずに死亡」を×、「結果的に保護は必要なかったと後に判明」を○としている。まさに、今回の事件はこのポリシーで禁じられていることをした結果起こったと言える。

児相に通告が入って女児の傷やあざが確認されていたのに

さらに、「既存のシステムとAIシステムを併用している為、日々の経過記録やリスクアセスメントシートの同期作業が必要だった」とも資料にはあるが、同期していたのであれば、長期欠席をAIは「リスク高」と評価しなかったのか? そんなはずはない。累積1万件を超えるデータが蓄積されており、「AIが過去の知見に基づき、総合リスク、再発確率、過去の類似ケースを即座に導きます」とあり、かつ、再発率との関係において「過去に通告歴がある」という場合は再発率が上昇する、とシステムには入っているのだ。この家庭は施設からの家庭復帰後に通告が入り、傷・あざが確認されている。これだけでも虐待リスクは高いと言えるのだ。

さらなる大きな疑問は、三重県議会全員協議会での報告の中で、県担当者がAIの評価について「感覚的にもしっくりくる評価だった。違和感はなかった」と述べている点だ。まさにこの担当者の認識が、AIの数字に反映されたということだ。担当者の経験年数は分からないが、児童相談所で長年経験を積んだ福祉司、あるいは心理司なら、大きな違和感を抱いたはずだ。「こんなに数字が低いはずがない」と。

AI導入によって救える命は増えないのか?

では、AI導入によって児童相談所の専門性は向上しないのか。救える命は増えないのか。三重県の事件に関して言えば、子どもを救えなかった原因の一つは、AIが評価する為に必要な情報が入力されていなかった、ということだ。つまり、実際に親と子どもに直接会った職員が「虐待リスクはそれほど高くない」と判断していれば、重要な情報が入力されない可能性があるのだ。担当者が「この情報は重要だ」と思わなければ、調査すらしない、あるいは入力しないからだ。

三重県は、この事件の重要な情報を全て入れた場合、AIがどんな数字を出すのか再検証してみてはどうだろうか。

そして三重県が「AIの評価は参考、最終的な判断は人」と述べている通り、AIの評価を1つの材料にしつつ、最終的には職員が正しい判断をできることが重要となる。

結局は、「AIを活用するにしても、職員の専門性の向上が必須」ということに他ならない。私はその為には、育成体制を強化することと、経験年数を積ませることしかないと思っている。現在は、自治体によるが、児童相談所勤務を希望しない、知識も経験もない職員が児童相談所に配属される現実がある。



児相のマンパワーの問題もあり、現場の改革が急務

少なくとも、児童相談所勤務を希望している職員を採用すること、そして、警察官、家庭裁判所調査官、麻薬取締官のように、育成の為の学校を作り、最低でも1年は育成、そして現場に出ても1年程度は先輩の下での研修、さらに、児童相談所勤務を継続させること。その体制を作らない限り、児童虐待の専門家は育たない。

子ども家庭庁によると、一時保護の必要性の判断にAIを活用する予定で、国としてのシステムを設計開発中だ。来年度の全国での運用開始を目指している。来年度開始は確実ではないが、今後AIを活用する児童相談所が増えるのであれば、システム開発には三重県の事例の検証は必須である。

また、AIの導入によって虐待死を減らす為には、職員の入念な調査、迅速な記録の入力の徹底、また評価の為の必須項目の特定も必要である。その必須項目には、現認による子どもの安否確認はトップであるべきだ。そしてAIの評価が間違っていることもあるはずだ。その判断の間違いを見抜ける職員の育成も並行して行う必要がある。